片桐麻美さんの名曲「髪」が脳内再生された午後


2年も続いたコロナのせいで、いろんなことがほったらかしになっています。その一つが歯。そして、目。その他いろいろあるのですがとりあえず今日は歯のお話。

そう。歯。もう数年間も歯科に行ってません。これはよろしくない。そんな折、週末にポストに投げ込まれる地元紙の記事が目に入った。

うん、黒塗りばかりで何がなんだかわからない情報開示請求でいやいや公開されたお役所の資料みたいですが、この部分が広告で残りの紙面は一面半分がこの歯科医さんの特集記事。この先生がおらが村近所の町に開業するに至った経緯などいろいろ書いてある。まごうことなき提灯記事。まあ、それを言い出したらこの無料で週末に配られる新聞そのものが広告で成り立っているんだから全て提灯記事に違いないんだけどね。

気楽な気持ちで予約の電話を入れる。記事が出てからさほど経っていないのに直近はもう予約で埋まっていて1ヶ月後にようやく予約を入れることができた。

1ヶ月後。件の新しい歯科医さんを訪問。提灯記事の写真どおりの怜悧そうな先生。私より若い。記事によれば二児の母とか書いてたっけな。お約束どおりパノラマX線写真を撮影し説明開始。

診察室の窓際にはなぜか某EU非加盟国の女王陛下様がおわしてずっと私に手を振ってくださっていた。この写真をつぶやいたーに載せたら「女王陛下に足を向けるなど! なんたる無礼か!!」と突っ込まれた。ごもっとも。

私の問題はといえば、数年間放置したせいか左側の奥歯がたまに痛むのよね。虫歯かな…と言ったら先生は、「いや、それは違う」とのたまう。いわく、横から生えている親知らずがぐいぐい他の歯を押しているのが問題だとか。虫歯ではないというのは朗報と言えなくもない。

で、横に生えた下の親知らずのせいで上の親知らずが「相方」を探してどんどん下に伸びてきていると。さっき撮ったX線写真がその通りの様子を確かに示している。先生はいやーな一言。

「親知らず、抜きましょう」

画像はWikiより拝借。

いやーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ。

いつ親知らずが生えたか記憶が定かではないが、少なくとも20年以上はこの問題を避けて通ってこられたはずだ。ついでに言えば歯科矯正時もこれを抜けとは言われなかった。なぜ今になって…ぶつぶつ…と反論したけど痛いんだからしょうがない。抜くのかよぉ。

先生曰く、「私がやってもいいんだけど、もうこの村のお年寄りの予約でいっぱいでね。近所の大きな街の先生に紹介状を書くからそこでやってもらってね」。そう。田舎の街にやってきた歯科医さん。あっという間に予約が埋まり、もう新規の患者は採らないらしい。

そして、親知らずの抜歯の予約が決まったのはそれから6週間後。

考えると鬱になる(少なくとも楽しい気分にはならないよね)のであまり考えないようにして、やってきた抜歯の日。車で30分近くかかる近所の地方都市にある口腔外科医さんを訪問。

まあここが地元の歯医者さんに負けず劣らずのきれいなクリニックでして。そこで28ページにも及ぶ問診票を記入し(ただし、タブレット内で。無駄に紙に印刷してない)、処刑の…じゃなかった処置の順番を待つ。

予約の時刻が正午で、到着したのが午前11時半過ぎ。12時ちょうどに手術室に呼ばれる。まず、意味があるのか不明だが、頭にシャンプーハットみたいなのをつけ、ついでに靴にもビニールをつける。

中はといえば手術室というより診療室。やたら広い部屋の中央に診療台があり、私の向かいには大型のテレビがありそこには歯科医さんで撮ってもらった例のパノラマX線写真がででんと写っている。私が平成初期の日本と比べるのが悪いんだろうけど私の知っている日本の歯科とだいぶ違うなあ。いま日本で歯科医に行ったらこんな感じなんだろうか。

誰も私の歯のX線写真など見たくないでしょうからモザイクかけてます。真ん中の黒いのがテレビね。

歯科助手さんとちょっとやり取りしていると先生登場。インフォームドコンセントって言うんでしたっけ、きちんと流れを説明してもらい、それを理解したことを確認するためにまたもやタブレットに署名。その中で「部分麻酔でやる」ってあったけど、はて、全身麻酔をリクエストできたのかな。聞きそびれた。

そののちついにきました麻酔薬。

ぶす、ぶす、ぶす、ぶすっ

正確には覚えてないけど必殺仕事人よろしく間隔をあけずに少なくとも4発は麻酔攻撃をいただく。痛くなくなるはずの麻酔注射が痛いわっ

必殺仕事人はじゃあ麻酔が効いたころまたきますねー…と放置プレイ。まあそりゃそうだ。

やることがない。ヒマだ。目の前にあるのは私のパノラマX線の写ったテレビ画面。どうせなら笑っていいともでも映してくれればいいのに…とか時代も場所も無視したアホなことを考えつつちょっとほっぺたをつついてみたが、なんか麻酔は効いてる気がする。効いてないと阿鼻叫喚の地獄絵図になるわけですが。

20分後、先生がもどってくる。じゃあ、麻酔が効いたか確認しますね…と言いつつ歯をつつんつんされる。 私が「大丈夫そうですね」というと、やたら鋭利な小さな千枚通しみたいなのを見せてくる。

「これで刺されて感じないんですから大丈夫ですね。始めましょう」とマスク越しだから確証はないけどたぶん先生はにっこり笑ってた。それじゃあとマウスピースみたいなものを噛まされる。なるほどこれがある限り痛くて口を閉じるということもできないね。もうあとには戻れない。

以下、細かく説明しても誰が得するとも思えないので端折るけど、まあ、あの嫌な脳内に直接響くドリル音。あの何かが焦げる匂い。ちょっと先生、他の歯まで間違って傷つけないでよ…という恐怖感。

そういえば日本では診察室の天使さん、歯科助手さんが「痛かったら手を上げてくださいねー」とか優しく言ってくれるような気がするが、そんなのはなかったなぁ。助手さんはいるにはいたけど吸引等に専念されていた気がする。とりあえず痛かろうとなんだろうと最後まで駆け抜けるのがドイツ式…なのかどうかは知らん。

ぼーっと思っていたのはこの歯のしつこさ。抜かれまいと必死に抵抗してるんだろうなぁ。ああそういえば歯周病とか歯茎に問題があると歯が抜けるとかあるんだってなぁ。いや待てよ、これだけしぶとく抜けない歯がぽろぽろ抜けちゃうってどんな状態なんだろう。ああ、この音やだなぁ。おソノさん私(以下略)。

10分くらい経ったろうか。ようやく下の親知らずの抜歯が終了。先生は黒い糸を出してきて傷を縫ってくれる。その糸がさあ、なんかやたら長いのよ。それを先生の方まですーーーーと伸ばしてまた縫って…これを見ていて何かを思い出した。テレビドラマで型破りの名外科医が屋上でなぜか上半身裸で手術の脳内シュミレーションをして手を動かしているあれ。ちょっと何言ってるかわからないという方、私のネタが古いだけですから気にしないであげてください。

ああ、これで半分かぁ。あと上の歯が残ってるんだなぁ…と思っていると。

「はい。終了ですー」

ほえっ?

マウスピースを外してもらい、その代わりに血止めのガーゼを挟んでもらったので少し喋れる。思わず「え?まだ半分かと思った」と莫迦正直に言ってしまう。

そののち、抗生物質の処方箋を出すとの説明をいただき、「ついでにイブプロフェンとパラセタモール錠を両方買って一つづつ飲むといいよ」という助言までいただく。

言われるままに買ったイブプロフェンやパラセタモールの半分は優しさでできているかどうかは定かではない。

先生の話は真面目に聞くべし…という見上げた根性から先生の目をしっかり見ながら話を伺ったのだが、その目の片隅に見えたのは、その横で私の抜かれた歯を含めた「汚物」を歯科助手さんが処分している姿。しまったぁ。抜かれた親知らずを見ることができなかったぞ。

脳内で流れるのは片桐麻美さんの髪 という鬱な歌。たぶん誰も知らないと思うけど。とりあえず横に生えていた以外なんの問題もなかった親知らずを抜いてしまったこと、そしてそんな親知らずに別れを告げなかったことに心を痛める変な大人。バカヤロー、切った髪はまた生えてくるけど抜いた歯は二度と復活しないんだぞーとか脳内で勝手に再生して勝手に突っ込んだして。

時刻は12時40分。部屋に入って40分。麻酔が効くまで20分だから術後の説明ほかまで考えると抜歯そのものは10分かからなかったくらいということになる。ほかは知らないけど順調に行ったほうよね。

この歯科医さんは3階にあって、地上階にあるのはお約束どおり薬局。地元応援のため処方箋は近所の薬局で受け取ってもいいと思ったのだが、ドイツのいなかあるある、近所の村の薬局は午後12時半から2時半までは長い昼休み。仕方なくその薬局で処方箋の抗生物質と痛み止めを買う。ついでに飲む。

そののち。確かに痛かったけど我慢出来ないほどじゃないし、その日の夜は痛みにのたうち回ることもなくいつも通り熟睡。翌朝目覚めてみたら大して痛くもないので痛み止めを飲むのもやめてしまう。そういえばダブリンで歯科矯正をしたときも前歯と犬歯の間の歯を都合4本抜いたけどその時も大したことなかったなぁ。でも歯を抜いたことが悲しくて、ダブリン郊外のBrayから会社に戻るのにわざわざ遠回りしてSally Gapまでドライブしたことがあったなあ。とりあえずあのときもそんなに痛くなかった覚えが。

そしてその翌日が今日、つまり親知らずを抜いたのが火曜日で今日が木曜日なのですが、腫れる腫れると散々脅されて冷やし続けたのが良かったのかその兆候は全く無し。下の歯茎は頬の上から触れるとやや痛いのですが、上にいたっては抜いたことすら忘れそう。単純なケースだから良かったのか歯医者さんの腕が良かったのかはわかりませんが、とりあえず拍子抜けするほどの親知らず抜歯体験となりました。まる

ちなみに、抜糸は(抜歯じゃなくて抜糸…ああ日本語ってややこしい)。近所の歯医者さんで来週やっていただく予定です。