埼玉に海はありません。
コドモの頃に見ていた欽ちゃんのどこまでやるの…とかそんな感じの番組で聞いたひとこと。おそらく小学校低学年だった私にはちょっとびっくりだったんですよね。そっか、埼玉に海はないのか…って。当時大分のどちらかといえば沿海部に住んでいた私にはちょっとした驚きでした。
そして、そんな可愛い子供時代(当社基準による)から数十年が経ち、ふと気がつくとドイツの片田舎に住んでる私。地図で見ると最寄りの海まで直線距離でも200キロを超えている。ドイツの誇るアウトバーンを使っても軽く2時間以上はかかるわけ。
これだけ書いておいて矛盾しているのですが、じゃあお前は海に対して思い入れがあるか…と聞かれると、まっっっっったくございません。魔女の宅急便の中の黒猫ジジの「海なんてただの大きな水たまりじゃないか」はけだし名言だと思う。
…なんですが、この数週間の異常な暑さの中、嫁が泳ぎに行こうと言い出した。でも海は遠い。私はうちから小一時間でたどり着けるハーツ(山)国立公園の湖に行こうと言ったのに、嫁が言い出したのは、ここ。
要は湖なんだけど…聞いたことねえなあ。
地図上で確認すると、州都ハノーファーからさほど遠くない…つまり、水がきれいかどうか怪しいなどの問題があったのですが、ふと気がついた。ハーツ国立公園に行くよりこっちのほうが30分ほど車を長く運転しなければいけない。車の中はクーラーが効いていて気持ちいい。
私:「よし、行こう」
こうして、8月6日(月)の朝から出かけることに。
朝食はきちんと食べないと死んでしまう…と信じて疑わない(に違いない)嫁により、前夜のうちから朝の8時に近所のパン屋までおいしいパンを買いに行くように厳命を受ける。私がパンを片手にうちに戻ってきたときには殊勝にも嫁は起きていた。
朝の9時前に朝食を終え、こりゃには9時半には家を出られるな…などと愚考した私はこの家の人間のことをさっぱり理解してなかった。クーラーボックスに水や果物、さらにはパンのついでに買ってこいと命じられたビスケットなどを詰め込んだのはわかる。タオルは各自数枚用意して、敷物の毛布も用意して…準備いいね。
さらにはどこに隠してあったのかビーチパラソル、果てはビーチ用のテント(んなもんがあるんかい)まで用意して…などとやっていて、結局家を出たのは10時半。とても日帰りでビーチに行くとは思えない量の荷物がトランクに詰め込まれる。
うちを出てかっきし1時間半後に湖畔の町、Steinhudeに到着。この村の外れの駐車場から湖水浴場まではなんと2キロ近く離れている。ふだんなら2キロほどの徒歩は気にならないが、外気温30℃、さらには引っ越しかと思うような大荷物の前にこの距離を冗談にも歩こうとは思えない。
運良く1時間に1本しか運行されていない…これ何ていうの、路面電車じゃないし…この乗り物に乗れる。クソ暑いだろうなと思いきや、動き出すと風を感じて気持ちがいい。
ちいさな島がまるごと湖水浴場に指定されている。島の入り口の橋のたもとでのりものから降りた私達は大荷物を抱えて湖水浴場へ。
着いた。
月曜日ということもあってか、あまり人は多くない。1000台も収容するとかいう駐車場もガラガラだったのでおおよその想定内だったのだが、仮に日曜日に来たりしたらあの江ノ島の海水浴場の中継…のような状態になってしまうのだろうか。
そのせいもあってか、気持ちの良さそうな木陰が空いている。さっそく敷物の毛布を敷いて場所取りをする二人。重い思いをして持参したビーチパラソルもテントもまったく役に立たなかった。木陰は風が吹いており、心地よかった。
そうは言っても、とりあえず、ビール。クーラーボックスを開けると、おお、4本も入っている水のビン(ガラス瓶…重いわけだ)はひえひえ。…はいいけど、ビールは?
嫁:「持ってきてないわよ」
使えん!とキレそうになったが、自分で支度をしなかった私が悪い。海の家…ではなく売店があったのでビールを購入。330mlしか入っていない小瓶が3ユーロ。洋の東西を問わず海の家はぼったくりやね(注:その後4-5時間滞在したので、飲酒運転には該当しません)。
大荷物の中にはなんと、小学校のときに使ったような巻タオル(ゴムがついたアレ)が入っており、それを使って、海水パンツに履き替える。よし、嫁、泳ぎに行くぞ。
嫁:「え?一緒には行かないわよ。どっちかが荷物番してないと」
…お先にどうぞ。
というわけで、海辺でウフフキャッキャッしたいと思っていた私の野望は潰える(ホントはそんなことは思っていなかったが、まあ、話の展開上そう思っていたことにしよう)。
んじゃあ、私はビール片手に本でも…と思い読み始めるが、本のまえがきすら読み終わらないうちに嫁が戻ってきた。どうした、忘れ物かと聞けば…
嫁:「水がおしっこみたいに生暖くて全然気持ちよくないっ」
…非常に分かりやすい表現ながら、品位に欠けるという誹りは免れないな。ハーツ国立公園の湖なら、たぶん標高が高い分、水温も低かったろうなあ。
交代。私が泳いでくる。
というわけで、日陰のない砂のビーチエリアを歩いて横断し、水辺へ。水は…私に言わせると冷たくなくていいレベル。…なんだが、おそろしく遠浅なのだ。岸から50メートルほど進んでもまだ腰の高さまでしかの水深しかない。なのに、そこにあるのはブイたちと、それらを結ぶヒモ…なんすか、この先は遊泳禁止区域なんですか?
今日学んだこと:Steinhuder Meerでは、おしっこのような温かい水に腰の高さまでしか浸かることができない。
なんちゅーか、お子様が水辺で砂遊び…というのには悪くない湖。だけど、泳ぐ…という意味ではまったく不合格なビーチ。そう思ってみると、コドモが水遊びしている以外、泳いでいる人などまったくいない。ブイに近い最深部(それでも私の腰のあたりまでの水)では数組の大人たちが、べたべた暑苦しくなにかしていた。水面下でなにをなさっているのやら…と思わなくもなかったが、そう、水の透明度はまったくない。自分の足すら見えないレベル。もういろいろダメダメで…。
そんな中、コンタクトレンズをしていて顔を水に浸けたくない私は(それでなくても水が透明じゃないのに…)犬かきで泳ごうとするが…浅くてうまくいかない。しばらくして諦めて岸へ戻る。
一体水面下でウフフキャッキャッしている以外の大人たちは何をしているのだろうと砂のビーチを見ると、真っ白なお肌を焼こうとしているのか日光浴してる。…いや、耐えきれないくらい暑いでしょ。それ。
しかもまあ、ドイツ人の皆様、とりわけ妙齢…と言える年齢をすぎると、すごいのよね…非常時のために備えたお肉の量が。日本基準で言えばおデブの嫁が痩せて見える不思議。そんな非常時への備えに余念のない人々がゴロンと…ゴロンと…ゴロンと…
…見ると、トップレスの女性もちらほらいらっしゃいますな。
残念なことに(お前が言うなというご批判はごもっともですが)、私が見せてくれてありがとう…と拝みたくなるようなお方はただの一人もおらず、見たくない人+見てもしょーがない人率は100%だった。
もとより男性は完全に視界の範囲外だったのだが、それでも、たんたんたぬきを隠そうともせず海水パンツを履き替えようとしている人が目に飛び込んできた。ううっ、もう一生ナマコは食べられない(実は元から嫌いです)。まあ、本日の写真が少ないわけは、そんなビーチで写真をがんがん撮ってたら何かしら問題が起こるのではないかという自意識過剰のせいです。
覆いもなにもないシャワーが3箇所あったのでそこで冷水を浴び木陰の我が陣地に戻る。
ふと気がつくと、人が増えている。お隣は中東系の一族郎党全員連れてきました…という趣の15人はいるグループが、何を言っているかさっぱり分からないが大声で話している。
私は他文化を否定するつもりはないが、あの女性のかぶりもののヒジャブとやらは暑そう(あの、目だけ出ているやつじゃなくて、顔全体が見えるやつだったのでややマシだったか)。しかも、コドモや男性は泳ぎに行くのに女性は全員お留守番。なんか不条理だよなぁ。
結局午後4時過ぎまで滞在し、退散。湖近辺のぼった価格に恐れをなした私は、ちょっと離れた湖の反対側にあるカフェへ。到着したのは午後5時前。
午後6時まで営業のカフェはすでに人もあまりいない状態で、テラス席に陣取る。すでにメニューはテーブルの上にあったのでなにか食べようとめぼしいものを探す。よし、これにしよう。
…5分経過。
…10分経過。
日本みたいに呼び出しボタンなどないから、誰かが来るのを待つしかないのだが、誰も通りがからないんだから話にならない。ようやくやってきたウェイトレスさん…
「キッチンは午後5時で終了しました。ほら、(メニューを指さしながら)こちらに書いてあります。午後5時までって」
…お前が10分以上来なかったんだろうが…と心の中で思ったが、たぶん5時数分前に注文しても断られていたと思う。キッチンは午後5時に閉まるのであって、午後5時までに調理が完成していないといけない…というのがたぶんドイツ基準。
結局、冷たいものならできますということで、頼んだのが、これ。
…€5.9と格安なので文句はないが…大したもんじゃなかったな。
帰りの車内で嫁が言うのだ。
「今日はちょっとがっかりかも」
…ハーツ国立公園の湖に行くべきでした。いろんな意味で。