大雪の中、ドイツを目指す(1)

ヨーロッパを襲う寒波のお話は、ここ数日の日記で激しく(当社比)実況中継中ですが、実際ここまではあくまで「他人事」だったのよねん。会社から徒歩5分のところにあるアパートに住んで、同僚が雪の上を真っ青になって車を運転して来たりとか、雪がさらに降ってきたからと、慌てて逃げるように会社から去って行ったりするのを自分には関係のないことと、コーヒーを飲みながらぼーっと見てたりとか、let it snowを歌って顰蹙を買ったりしていた。が、この日、その「他人事」「自分の問題」になった。

ドイツに、行かなくちゃ。

…ってか、ぶっちゃけ、行きたくない。だって、ここ数日のフライトはほとんどキャンセルされていて、ずっと状況をネット上で確認していたんだけど、前の日のフライトなんて、1時間遅れと表示され、それが5時間遅れになり、ついには欠航となった。このヒコーキに乗ろうとしていた人が、果たしてヒコーキの中に缶詰になっていたのかなどの詳細は定かではないけど、どっちにしても乗客が(いや、たぶん乗員も)そうとうイライラしていたことは容易に想像がつく。

ダブリン、フランクフルトのルフトハンザの便は一日3便。で、昨日は、12時過ぎから午後7時前まで滑走路が閉鎖された関係で、第2便と3便が欠航。さらに、その前の日のフライトも2便欠航されたから、相当な数の乗客が足止めを食らっていると思われる。ちなみに翌日の1便の機材は、通常前日の3便が一晩留め置きされて1便になるのだが、この日は、前日の2と3便がキャンセルされているので、2便の機材が充当されるイレギュラー運用。

この寒波は今週末はもちろん、来週も続くとのこと。そうなると、日曜日の復路、フランクフルトからの第3便でダブリンに帰ってこられるかどうかは大いに疑問。そんな状況だから、そもそもヒコーキに乗れるかどうかもわからないし、乗れたって定刻通りに着けるとはとても思えない。だったら、最初から乗らなければいい!安い航空券だけど、こーゆー場合は、無料で返金、変更などの特例があるに違いがない。我ながら、賢いぞ、オレ(当社比)。

というわけで、電話しましたよ。前日の午後10時くらいにルフトハンザに。10分くらい待たされた挙句に、鳴り続く電話に疲れ果てて完全な人間不信になったような係から「変更はできない航空券です」と木で鼻をくくったような対応をされる。あーあー、朝の4時に起きてヒコーキに乗れないとか空港でハマるとかど最悪な一日になるのかな。実際、ネット上でチェックインしようとしてもできないし。

かくして、朝の6時50分発のフランクフルト行きのヒコーキに乗るために、殊勝にも朝の4時に起きた私はクルマで空港に向かいましたよー。幸い風向きが変わって夜のうちの降雪はなし。だけど気温はマイナス5度。道は完全に凍ってます。

幸いM50は除雪がされており、30分もかからずに空港の長時間駐車場へ。そして、ターミナルへ。

(駐車場。長期駐車していると思われる車は下回りまで雪に埋まってしまっていることに注目)

案の定と言えば案の定、カウンターは混んでます。しかも雰囲気悪いです。険悪です。

並ぶこと15分、暇だったので、係に何を言われるかはおおよそ予想した。「席がありません」「ロンドン経由に変更しました」(それだと余計状況が悪くなるかも)などなど。この時点で朝の5時40分。出発時刻まであと70分。だけど、係の発した言葉は私のその想定問答集にはない言葉だった。

「お客様には変更手数料が発生します」

はぁ????

まったく予測していなかった係の反応のおかげで、私は一瞬フリーズしてしまった。とにかく、搭乗受付ではわからないから発券カウンターに行けとのこと。はい、行きましたよ。発券カウンターへ。

殺気立ってます。

ここにいる係はたった一人。この一人を取り囲むように数人の乗客が立っており、そのうしろには私を含めて5-6人の乗客。列に割り込んだ割り込まないで乗客同士はケンカ腰だし、カウンターの前に立つ乗客は「まだか」と顔を真っ赤にして怒ってるし。うわー、オレ、ここで仕事したら3日でおかしくなるか、態度の悪い客を殴ってクビになるわ。

後ろの人に何気なく話しかけてみると、お気の毒にももう数日ダブリンに足止めを食らっているとのこと。ただし、ホテル代は航空会社が出しているらしいが。お気の毒。なんか復路の自分の姿じゃないだろうかという気すらする…出発できればだけど。

そこに並ぶこと50分。気がつくともう午前6時半。出発まであと20分。この時点で私の頭の中にあったのは、これで飛ばなくていいな。あ、これってオーバーブッキング扱いなのかな。EUレギュレーションのコンペンセーションの対象になるのかななどと、もう飛ぶ気はなし。

カウンターの元はかわいいのに般若の相となったおねえさん(同情するが)電話を肩と耳の間に挟んだままカウンターに居座っている客に「あなたはチューリッヒ行きに予約されているって言ったでしょ!ほかに6時50分発のフランクフルト行きに予約されている方!

…それ、私、だよね…。

おそるおそる私が名乗り出ると、般若の相のおねえさんは受話器を持ったままコンピューターになんか打ち込んで私に「搭乗受付カウンターに戻って」とひとこと。

言われるままに搭乗受付カウンターへ。もう乗客はいない。数人のキャンセル待ちと思われる人たちを除いて。時刻は6時35分。出発15分前。

係:「発券カウンターでなんていわれました?」

…ここに戻れといわれたんですけど。

受話器をとると、発券カウンターに電話する係。が、発券カウンターのかわいそうなおねえさんはおそらく受話器を肩と耳の間に挟んだまま般若の形相で座っているに違いない。当然電話はつながらない。目の前の係は、「私に絶対に話しかけるなよ」というオーラを全身から出しつつ、こちらも何も語らない受話器を持ったままぼーっとしてる。なんか、オレ、悪いことしたっけ?空港って場所は、今回のように何かが起こるとひどい労働環境になるみたいだ。ここでは働きたくないわ。

どうも言われたことやついにつながった電話での目の前の係と発券カウンターの般若との会話を漏れ聞いたことをまとめると、私の予約はそもそも、この日の夕方の第3便だったのだ。ところが、時刻改正でこの便だとフランクフルトでの乗継ができなくなってしまったので、2ヶ月ほど前に予約センターに電話をして、この朝の1便に変更されたと。それは確かにその通り。

ところが、システムの手違いか何か定かではないが、その変更が私の予約に反映されていないらしいのだそれで、空港で見えるシステム上では、私は今晩の第3便に予約されているらしいのだ。…それって悪天候とはいっさい無関係の大ポカじゃん。しかも、私の券は格安券だから、システムが変更を受け付けてくれないんだと。

そういえば、前にも同じことが何度かあったな(あったんかい)。違いは、その時は係の誰もが殺気立っていなかったこと。あっさり変更されたもんなあ。何度かは発券カウンターに足を運ぶ必要すらなかった。

私にとって運がよかったことは、数日前にルフトハンザから予約確認の自動メールを受け取っていたこと。なぜかその自動メールには私の予約は正しく第1便になっていた(なっていなかったらこの時点で間違いに気がついてルフトハンザに連絡できたわけだが)。このメールがBlackberryに残っていたので、予約の証明になった。これがなかったら、「あなたは第3便に予約されてます」で話が終わってしまっていた可能性が高い。Eチケットだろうと何だろうとやっぱり労を厭わず予約の詳細とかはプリントしておいたほうが正解だなと感じた。

ふと気がつくと、ほかには客の姿はなく、別の係の人が私の横に立っている。カウンターの係、機械相手に悪戦苦闘していたが、ついに諦めたらしく

係:「乗り継ぎの搭乗券はフランクフルトで受け取ってください」

と言って、手書きでチケット番号が書かれた搭乗券をくれた。…ああ、要するに再発券したのね。ってか、乗れるんかい!もう出発時刻が過ぎたヒコーキに。

私の横に立った係のおねえさん、

係:「行きますよー」

このおねえさんもまたすごかった。保安検査場、優先ゲートも含めて大行列ができてたのに、その大行列を押しのけて進んでいく。列に並んでいた地元のおじさんには、悪意がないのかイヤミなのかは定かではないが、「Good Luck!」とか言われるし。なんかパトカーに先導されている気分。

保安検査場でもすでにX線検査のために順序良く並べられたトレーを後ろに押しのけて、

「早くここにそれ(かばん)乗せて!ごめんなさい、急いでるの!」

…そこまでするかよ。

ようやく保安検査を抜けると

「ベルトなんか後にして!早く!走って」

…なんであんたそんなに本気なのよ。まあ、ヒコーキが定時運行されているのは、こーゆー係の努力の賜物と感謝すべきところなのだろうなあ。それにしても、本心はチケットをキャンセルしたかった客を走らせてまでヒコーキに押し込んで、数日間足止めされて本気で家に帰りたい客を乗せないってなんか根本的に間違っていると思う。

で、言われるままゲートまで走ると…

…まだ搭乗終わってないし…。さっきの人を押しのけてまで走った苦労はいったいなんだったんだ?

それからがまだ長い。ダブリン空港はルフトハンザにとっては「アウェー」の空港なので、離陸の順番「スロット」が取れないらしいのだ。隣のゲートからは「ホーム」のエアリンガスのヒコーキがプッシュバックされていく。

結局ヒコーキがゲートを離れたのは定刻のほぼ2時間遅れ。到着もおそらく2時間遅れの見込み。…そう、ここで話は現在進行形になったわけ。今、ヒコーキは順調に飛行を続けてます。言わずもがな、接続のヒコーキはとうに逃しております。もっと言えば、今時刻、乗るはずだったヒコーキはHannoverに着いたころです。さて、どうなりますかは怒涛の乗り継ぎ編に続く(って怒涛になるかどうかは知らん)。