スーツケースを求めてKildare Villageへ

前々回の日記で日本から帰ってきた話をしました。で、日本とダブリンを何往復したかわからない、愛用のスーツケース、旅行するたびにだんだん壊れていったのですが、今回、チャックが完全に壊れてこりゃ買いなおさなきゃダメかな…という状況になってしまいました。


そんなときに、Kildareにあるアウトレット村よりメールが届きました。


古いスーツケースを持ち込んだら、サムソナイトのスーツケースがアウトレット価格よりさらに20%引き。


なんですと。


こりゃ行かないテはないと、9月の終わりの週末、愛用の、でも壊れてしまったスーツケースを持ってKildareまで行ってきました。


Kildareのアウトレット村のサムソナイトのお店。たいした広さではありませんが、私を迷わせるには十分のスーツケースを取り扱ってます。


私が目をつけたのは75リットルサイズの軽量のスーツケース。なにやら新資材らしく、布じゃないのに布みたいに弾力があり、かつ、強度もある。これはいいなあ。でも20%引きになっても190ユーロはあんまりに高い。さあ、どーすべえか。


…と思って店内を眺めていると同じ75リットルサイズの布製のスーツケースがなんとたったの65ユーロで売ってる。さっきのスーツケースのわずか1/3の値段。殺し文句のように「特別価格」と書いてある。


ふーむ。


所詮はスーツケース。消耗品。安いのをどんどん買いなおしたほうが得だな。いやまて、ダブリンくんだりからせっかくいいスーツケースを買いに来たんだから、たまには贅沢したっていいじゃないか。


と、頭の中で自分会議が始まる。もうスーツケースは壊れている。しかも、ダブリンからまたKildareまで来るのは面倒といえば面倒だ(高速道路と高速道路並みの国道7号線をまっすぐ走ってくればいいだけなんだけど)。


そこにやってきたのは、おそらく、オーストラリア人と思われる若い女性の店員さん。オーストラリア人じゃなかったかもしれないけど、絶対にアイルランド人ではないと断言する。だって、一人ひとりのお客さんに、「なにかお探しですか」とニコニコしながら話しかけている。そんなアイルランド人の店員さんに、かれこれ10年ほどアイルランドに住んでいるが、いまだにお目にかかったことがない。果たして、高いほうのスーツケースの前にたたずんでいた私の前に来ると…


店員:「なにかお探しですか(にこっ)」


アイルランドなのに店員さんが微笑んだー。ママー、怖いよー。


…などとひるんだわけではないが、正直驚いたことは事実。


私:「いや、この(75リットル)サイズのスーツケース探してるんですけど。できるだけ軽いやつがいいんですけど。できたら、4輪キャリーのほうがいい。だから、これなんかどーかと思うんだけど」
店員:「これは最軽量の新製品ですよ」
私:「重さは?」
店員:「…お調べします」


知らんのかい。


ほかの店員さんに「カタログで確認すればいいよ」というあまりにまっとうな(そして、なぜそれを自分で思いつかないのかと突っ込みを入れたくなる)助言を受けて、カタログで確認した彼女は…


店員:「4.7キロです」


スーツケースを選ぶときに最高にして最大に重要な点はその重さだと思う。だってエコノミークラスの許容量の20キロのうち、スーツケースそのものの重さが5キロもあったら、残りは15キロ。荷物の重さの1/4がスーツケースそのものってあまりに莫迦な話だと思うのは私だけだろうか。


ふーむ、こんなに軽く感じるのにそれでも4.7キロもあるのか。そういえば、あっちの「超特価」の商品はどーなんだろう。


私:「あっちに『超特価』のスーツケースがあるけど、あっちと比べてこのスーツケースはどうなの?」
店員:「あちらはお買い得な商品になっております」


この瞬間に私は確信した。この店員さん、感じはいいけど商品知識はないわ。まあ、ウソを堂々と自信を持って語る店員さんよりははるかにマシだともいえるけど。


店員:「…ただ、あちらの商品では古いスーツケースの下取りでの20%引きはいたしかねます」


…ふむ、そうだろうなあ。そうじゃないと話がうますぎる。そうだとしても、この価格差は大きすぎるなあ。


私:「で、その価格差に見合うだけの価値はあるの?」
店員:「そうですね。こちら(の値段の高い商品)は真ん中で開くのに対して、あちら(のお買い得な商品)は上から開く商品となります」


…見ればわかります。


店員:「それから、こちら(の値段の高い商品)は四輪キャリーで使い勝手がいいのに対して、あちら(のお買い得な商品)は二輪…」
私:「(お買い得なほうも)四輪じゃん」
店員:「…四輪ですねえ」


この時点で私の心はほぼ決まった。


私:「ちなみに(お買い得なほうの)重さはどうなのよ?」
店員:「4.7キロ…同じ…ですねえ」
私:「あっちのお買い得なほうにします」

 


日本でかなりの期間、店員なんていうアルバイトをしていた私としてはあまりに信じられない。安い処分品から、付加価値の高い商品にお客を誘導するのがある意味で店員の腕の見せ所じゃないのか。こんなレベルでいいなら、私だって明日からアイルランドで店員ができるぞ。


かくして、せっかく後部座席に壊れたスーツケースを乗せていったのに、ふたたび持って帰ることになった私。いくら末端の安い商品とはいえ、サムソナイトのスーツケースを日本円にして7000円程度で買った私はけっこう買い物上手…です…よ…ね。