スキーバスツアーの原価を計算してみる

久々の更新でこれはねーだろ…と怒られそうですが、ちょっとした計算をしてみたんです。素朴な疑問から。


疑問:軽井沢(入山峠)のバス事故、いったい原価はいくらなんだ?


例の入山峠でのバス事故から1ヶ月が経つらしいです。この事故の原因の特定が進んでいるらしいですが、どうも推定される事故原因に私には納得できません。私の疑問を一言で書くと…


バスってブレーキかけても止まらないの?


排気ブレーキがどうこう…という説明はわかるんです。でもさ、車って究極まで単純化すると「ハンドルは曲がる。アクセルは進む。ブレーキは止まる」ですよね。この車の一番大事な「ブレーキは止まる」というのが効かないっておかしくないですか?ギア操作を間違ったからってブレーキかけても暴走するってフェイルセーフ(もっと直接的にフールプルーフ【バカでも安全】)の視点からどうよ?という素朴な疑問を持ってます。なので、「単純に運転手が不慣れだった」とかいう解説には素直に頷けないわけです。


でも、まあその技術的なことを語るだけの知識も経験も(ついでに大型免許も)ないのでもっと下衆に、スキーバスツアーの「原価」について考えてみようというのが今日のネタ。もちろんこちらに関してもズブのシロートです。何はともあれ、亡くなった方のご冥福と、この事故の原因を追求し、今後の安全に役立てることで、犠牲になった方が浮かばれることを心から祈ります。


とりあえず、Wikiによると、バス会社がこの仕事を引き受ける「国が定める基準額」とやらが27万円だそうな。この価格以下でバス会社が仕事を引き受けると違法らしい。お上が決めた「この値段ならバス会社も安全を犠牲にする事なく運行できるだろう」という価格なんでしょう。知らんけど。


いや、知らんけど…ってことはないんだわ。私学生時代に某バス会社で添乗員のバイトをしていたことがありまして、その時に毎回の売上を計算してたのね。で、日帰りバスツアーの運行費用がざっと10万円でした。これから考えるとこの運転手さんとバスを少なくとも片道5-6時間、深夜に二人体制で走ることなどを考えるとこの距離の往復が27万円は妥当だと考えます。…いや、あくまでこれは「これを下回ると違法」と考えるならもっと高くてもいいわけで。


そして、バスの行き先は北志賀高原。なんと、事故を起こしたツアー会社のホームページが未だに閲覧可能です。これによると、「ナイトライナーで行く北志賀竜王スキー場。ホテル(無指定)1泊3日間コース」ーの価格はお一人様12,500円から。ただし、事故を起こした日の価格はもう一段階上の13,900円(2月のシーズン中以外はこの値段が一番多かった)。この価格には往復のバス代はもとより、1泊2食付きの宿代、スキーリフト券、果てはスキー一式のレンタルまで含まれると。レンタル破損保険とやらが一日500円かかるのを除けば、極端な話お財布を持たずに参加しても大丈夫そうです。


めっちゃくちゃ単純に、27万円のバス料金をバスが満席だとして50人で割ると一人5,400円という単価が出てくる。


今度は、北志賀竜王スキーパークのサイトに行ってみた。「ロープウェイ・リフト1日券」は4,500円。さらに、ホテルのひとつ「竜王プリンスホテル」は1泊リフト券付きで10,080円から(じゃらんでテキトーに検索した結果の価格)。


さらに、スキーセットのレンタルが一日3,500円。ウェアが別に一日3,500円…つまり2日借りると14,000円…となるが、どうもこれはいくらなんでも高すぎる気がする。


はい。以上を単純に足すと


バス代5,400円+ホテル10,080円(リフト含む)+スキーのレンタル14,000円=29,480円


(上記の計算からはじき出された費用)29,480円-(ツアーの募集価格)13,900円=15,580円の赤字


この計算方法はもちろん穴だらけ。まず、スキーのレンタル料金がべらぼう。原価で考えたらこんなにかかるとは到底思えない。さらに、個人手配だから上の値段になるので、このツアーのように格安で団体料金で、しかも空いているホテルを買い叩くような方法ならもちろんもっと安くなるはず。


そんな思いで件の北志賀竜王スキーパークのサイトを見てみると、あったあった、宿はおまかせで竜王60プラン1泊2食+リフト1日券(ナイター付き) 6,500円…とやらが。どこがどう削られるのかは知らんが、ホテルとリフト券合計10,080円が6,500円にまで削られてるし(しかも、別売りのナイター分のリフト券までオマケについてる)。これで各位何かしらの利益は出ているのだろう。とはいえ、食事の原価などを考えると、ホテルは喜んで引き受けている価格とはちょっと考えにくい。空き室よりはいいかな…くらいじゃないだろうか。


これをバス代と足すと、(バス代)5,400円+(儲けも含めてリフト券+ホテル代のギリギリの線)6,500円=11,900円。スキーレンタル7,000円(あるいは14,000円)を2,000円にまで圧縮できればこれでなんとか利益が出るか出ないか…の世界。…正直これが儲かる商売になるとは思えない。


すごく蛇足なんだけど、お客の中にはスキー板(別にスノボ板でもいいけど)やスキーウェアを自前の人もいると思う。持ち込みの人に差額を返すとはホームページのどこにも書いてない。つまり、持ち込みの人が増えれば増えるほど少ない利益がちょっと増える…ということになる。「預託荷物は有料」というLCCよろしく、レンタルは別料金にしたほうが公平な気がするが、そうしてないあたり、この辺に私が気がついていない儲かるカラクリがあるのかもしれない。


ちょっと考えを進めて、バスの値段を27万円から運行会社が実際に引き受けた「違法な」19万円にまで下げると、バス代が一人頭5,400円から3,800円にまで下がる。この差1,600円はまるまる懐に入るとすると、1600円かける50人でようやく8万円の利益が出る計算になる。あ、今気がついたけど、乗客は39人。50人じゃなかったんだ。これで計算し直すと…


(国の基準価格)27万円÷39=6,923円


6,923円+(格安宿泊+リフト券パック)6,800円=13,723円


ほぼウェブ上での販売価格の13,900円と同額になりました。つまり、スキーレンタルは無料じゃないとダメ…という計算になります。実際のレンタル原価がいくらなのか知らんけど、利益は出そうにない。これを違法な引き受け価格で計算し直すと…


(違法な引き受け価格)19万円÷39人=4,871円


4,871円+(格安宿泊+リフト券パック)6,800円=11,671円


スキーレンタルをまた2,000円に抑えられればちょっと利益は出るかな…ということになりますね。


…うん。どー見ても儲かってウハウハ…とかいう状態からは程遠い。このツアー会社を擁護するつもりなど毛頭ないけど、そりゃ違法でバスを手配したくもなるわな…。というか、そうしないと商売にならないと思う。


このツアーの設定価格そのものがおかしいってことはちょっと計算しただけでよく分かりました。このコスト削減が例えばホテルの清掃が行き届いてない…とかならまだしも、人命に直結するバス会社やスキー場のリフトにしわ寄せが行ったら…という不安が的中したのが今回の事故…と言ってもたぶん間違ってはいないと思います。