【追悼】さよならにんじん号(上)

久々の更新になります。1ヶ月も放置していてすいません。ずっと書こうと思って書けていなかった「にんじん号」の顛末です。


話は2年前にさかのぼります。男子寮の駐車場(防犯カメラつき)から私の車RAV4が盗まれました(詳細。今にして思えば、これが騒動の始まりでした。


その時点で2年後にドイツに引っ越すなどということは夢にも思っておらず、急遽車を輸入しました。思えば最悪の時期でした。何せ、某「政権交代。」のおかげで1ユーロが100円を切っている超円高のころでしたから。とはいえ考えている時間はほとんどありませんでした。数日で車を選んでそのまま整備をして輸入。2ヶ月ほどでにんじん号がアイルランドにやってきました。


この時だって、予算の関係でもう少し古い車を輸入するつもりだった。だけど、長く乗ることを考えてちょっと無理をして予定より2-3年新しめの2007年の車にした。ちょうどやや不人気色だったにんじん色のにんじん号が格安で手に入ったという事情もあるのだけど。


それから2年、ふと気がつくとドイツに引っ越すことになっていた。私の中にはにんじん号を売り飛ばすという発想は最初からなかった。だってなーんの問題もなく走ってるし、10年は乗るために必要な…いや、むしろ必要以上の整備をしていた。ドイツは右側通行、逆側の運転になるけどそれだって大して心配していなかった。なんとかなるさって。


5月の半ば。引越しの荷物満載でにんじん号はアイルランド海からドーバー海峡トンネルを経由してドイツまで運ばれた(この模様は現在車載動画として更新中です)。この時点で2ヶ月の猶予があったのね。ドイツでの車の登録までに。なぜ2か月か。それはアイルランドで契約していた自動車保険の海外での補償される期間が2ヶ月だったから。


何も知らずに、あるいは何も考えずに「なんとかなるさ」と持ち前の、そして、10年以上のアイルランド滞在でさらにターボがかかったいい加減さで近所のTÜV(アイルランドで言うNCT,日本だと該当するものがないけど、車検をする陸運局に近い感じ)に行く。その結果、車の登録は一筋縄ではいかないと告げられる。


まず、ライト。ライトが左側通行用に調整されているので右側通行の国では対向車に迷惑がかかるらしい。これを調整。…さほど難しいことには聞こえない。自動車の修理工場へ持ち込めば調節してくれそう。
そして、もうひとつは「排気ガスのレベル」がわからない。ドイツでは自動車税の課税が日本のようにエンジンの排気量ではなく、排気ガスに含まれる有害物質の量で決まるらしい。ちなみにこの方式はアイルランドでも登録年度が2008年以降の車両も同じ。


ここで大きな問題が発生。にんじん号が日本からの輸入車だということが大きな大きなネックになってしまったのだ。にんじん号、正式には日産NOTEって言うんだけど、これ、ヨーロッパで売っているのはエンジンの大きさが1.4と1.6リッターなのね(初代ガソリン車の場合)。で、日本のNOTEのエンジンサイズは1.5なの。ここでTUEFに言われたこと。


「この車、排気ガスのデータがないと登録できないよ」


まず、排気ガスのデータがないと自動車税の金額が決まらないと。アイルランドなら1.6のデータでいいよとか気安く言ってきそうな気がするがドイツではそうはいかなかった。正しいデータが必要だと。まあ、言ってること自体間違ってはいないとは思うがあまりにお役所仕事である感は否めない。


そして、排気ガスのデータがないともうひとつ問題が。ドイツの一部の大都市では排気ガスの基準をクリアしていない車は市中心部への乗り入れを規制されている。正しい排気ガスのデータがないとこの乗り入れ許可が出ない。

(この標識のある大都市の中心部には乗り入れが規制される)


了解しましたと、NOTEの仕様書をネットで探し出して提出。…が、ドイツのお役所様はいい顔をしない。なんでもデータが不十分だと。


困った私はドイツの日産にお願いしました。ところが、「うちでは扱ってない車だからどーもならんよ」とけんもほろろ。困った私は日本の日産にていねいな(当社基準による)お願いメールを書きました。なんとか助けてほしいと。


この間Cさんにはいかに日本のカスタマーサービスが優れているかを吹聴しておいた。間違いなく親身になって助けてくれるよって。だって日本だからって。


そして、待つこと1週間。首を長くし尽くしたころに返ってきた返信は…ひどかった。日産には悪いと思うけど、「悪い例」として一部公開させてもらう。


格別のご愛顧にも拘らず、ご依頼のE11ノートの件ですが、残念ながら、日産自動車として、ご提供できるデータは御座いませんでした。お力になれず、誠に申し訳御座いません。


この度、頂戴しましたお申し出内容につきましては、弊社の関係部署内とも、情報の共有化を図り、今後ともお客さまによりご満足いただける車造り、サービスの提供を目指して一層の精進を重ねて参る所存でございます。


…読んだ瞬間に言葉こそ最大に丁寧なものの丸わかりのテンプレメール。こんな特殊な状況でどんな内容を「社内で共有」するの?こんなメールならむしろ返事をもらわないほうがよかった…というレベル。くしゃくしゃにして破り捨てたいレベルだったけど、電子メールだったからできなかった。ともあれ、ネット上での「情報の共有化を図」るためにあえて転載させていただきます。


愚痴あるいは逆ギレ以外のなにものでもないけど、他山の石としてテンプレメールについては考えようと思った。えらそうに言う私も社内で自作のテンプレメールを使っている。ちょっと使い方を考えようと思った。「情報の共有化」とか、確かに何かしらクレームなり要望を出したときにそういう返事をいただければ、「ああ、私の意見は無駄じゃなかったんだな」と(それがただの美辞麗句でも)感じることができる。だけど、それがもう明らかにウソだと逆に小ばかにされた気分になる。テンプレメールを使うこと自体には反対しないけど、使い方を考える、状況によって内容を変える(つまりはテンプレを応用する)ことは大事だなと痛感した。いいことに気がつかせてくれたこの担当者さんには感謝したい。


ここで日本のにんじん号を手配、整備してくれた業者が動いてくれた。このテンプレメールを送ってきた日産の担当者に直で連絡。するとあっさりファックスで

20枚超のプロ用のNOTEの仕様書が私の手許に届いた。…なんだ。あるんじゃないか。


意気揚々とTÜVの担当者に持っていく私。ところが、この担当者がいい顔をしないのだ。


担当者:「このデータは使い物になりませんなあ。データ測定の仕方が違いますから」


へっ?


長い話を要約すると(注:私の言語能力では一部に誤解があるかも)、日本とアイルランドでは排気ガスの測定の単位が違うらしい。…それはメートルとヤードみたいに換算の方法があるに違いないから問題ないはず。…と食い下がったらそんな単純な問題じゃないらしいのだ。


その担当者の話(と私の言語能力)を信じると、日本では排気ガスの測定が時速50キロの走行を基準にして測定される。ところがヨーロッパでは時速100キロでの走行を基準にして排気ガスが測定されるらしいのだ。これってさ、思えば車の設計の根幹にかかわる問題のような気がする。つまり、ヨーロッパで生産・販売されている車は時速100キロで走ることを前提にして設計されている。一方の日本では時速50キロで走ることを前提に車が設計されている…という話になりそうな。つまり、日本で設計された車をそのままこっちで作っても売れないと。


私だってそのままおとなしく引き下がりません。だったら排気ガスの測定をすればいいだけの話じゃないかと。そう、データがないなら新たなデータを測定すりゃいいじゃないかと。


担当者:「うーん。調べてみます」


数日後に来た返事は実に非情というか望み薄というか…。


担当者:「測定は不可能ではないです。が、測定には1100ユーロ(15万円超)かかります。そして、…たぶんですけど…測定基準の違いから試験には合格しないと思いなあ」


そう。さっきの時速50キロで測定するか100キロで測定するかの話で、車の性能試験のために完全に整備された状態の新車ならともかく、7年も乗られた中古車ではいくら整備をしっかりしていたとしてもその試験には合格しないだろうというのが担当者の見立て。そして、不合格になった場合は、純粋に1100ユーロをドブに捨てる結果になると。


私:「…とすると、この車はドイツではまったく絶対に間違いなく登録できないんですかね」


担当者:「…できなくは…ないです。しかし…まず、自動車税が『環境基準不適合車』として扱われます。結果、ほかのNOTEと比べておおよそ4倍の自動車税を払っていただくことになります。さらに、一部都市の市内への乗り入れができなくなりますなあ」


けっこう話の途中を端折っているけどここまで2ヶ月くらいこの担当者とあーでもないこーでもないとやりとりをしていたのだ。その結果がこれ。


私:「数日考えさせてください」


…数日後、たとえ4倍だか知らんが税金を余計に払ってでも、大都市に乗り入れができなくてもそれでも登録しようと担当者に電話すると不在。電話口の別の担当者と話をする。するとこの人が思いがけないことを言い出すのだ。


担当者B: 「ああ、それなら、車載のコンピューターを載せかえればいいだけの話ですよ」


なんですと?


最近の車には故障の箇所がすぐにわかったり、またエンジンを制御するために車載コンピューターがついているらしい。そのコンピューターをヨーロッパ用に書き換えることができれば、1100ユーロもかかる試験を受けずとも、こちらの環境基準に適合した車として登録ができると。まあ、たとえて言えば、ウィンドウズOSのマシンをLinuxにすれば何とかなる…とかいう次元の話なんだと思う。…真っ暗だった闇に一筋の光明が射した気がした。


意気揚々と地元の日産ディーラーに車を持ち込んで相談した。これはいけると思っていたのだが、数日後に返ってきた回答は私の気分を落ち込ませるに十分だった。


ディーラー:「コンピューターの書き換えは無理です。そのようなことはできません」
私:「じゃあ、『書き換え』じゃなくて『乗せ換え』は?」


どこまでも往生際の悪い男です。でもさ、考え方としては間違ってないでしょ?ところが、その回答はどこまでもダメダメだった。


長い話を短くまとめると、車載コンピューターの互換性ってかなり低いらしい。たとえば、同じ車でも年式が違うともう無理とか、グレードがちょっと違うだけでも互換性はなくなるらしい。この辺はもうプロの次元の話だからどこまで本当なのか私には検証するすべもないけど、とりあえず、「きっぱり無理」と言われたことは確か。


(後半に続く)