レストラン難民、町のレストランに行く

私の住むドイツの某所。何度でも言いますけど、とんでもないイナカなんです。村の中でできることなんて散歩以外にないですから、それこそ牛乳1本買うにせよ近所の町まで出ないといけない。じゃあ、その近所の町とやらが栄えているかといえば、…なんちゅーのか、もうくたびれ果てて、それこそ毎月単位で一軒待た一軒と店が撤退していってます。


そんな中で、町の中に唯一まともなレストランというかパブというかがあったの。さあ、客席数はせいぜい50もないだろう。こじんまりとした雰囲気でいつ行っても私達のいつものテーブルは空いており、なにより値段が手頃だった。なので、けっこうな頻度で行ってたのよ。そこに。


そのレストランに最初の危機が訪れたのは2年前。オーナー兼ウェイトレスのモニカさん(仮名)という人がおりまして。この人、話はそれるけど、文句なくおばちゃんの年齢ながら、スラリと伸びた長い足から始まってスタイルが抜群に良かった。


それを本人も意識してて(しすぎてて)あんたそのトシでそれはないでしょう…といった感じの体の線がもろに出ている服とか、ミニスカートとかをいっつも履いてたのね。ところが顔は歳相応になっており…つまり、まあ、後ろから見ると「おっ」となる女性…これ以上書くとあらぬ方向からお叱りを受けそうなので自重しますが、とにかく、ある一定の角度からは美人だった。


…まあいいや。とにかくね、後ろ姿に惚れた男が出たのかなんなのか詳しい事情は知りませんけど、モニカさん、恋に落ちて遠い街で男の人と暮らし始めることになったんだと。それで、レストランを畳むと。


そこに女性が勝算があると踏んだのか、ステキなレストランがなくなるのを見るに見かねたのか定かではないですが立ち上がりまして、このレストランをシェフ付きで借りてそのままレストランの営業を続けてくれたの。


ちなみにレストランの月の家賃は1500ユーロ。まあ、この辺の内情がダダ漏れなのがイナカの恐ろしさなんですけど、正直家賃を払ってまで経営が成り立つとはとても思えなかった。3コースのメニューが10ユーロ(1400円)とかいうありえない設定だったんだけど、さすがにこれはなくなった。


それでも「いつ行っても私達のいつものテーブルは空いている」というくだりから察してもらえるように金曜日の夜とかに行ってもほとんどお客さんがいないのね。いるのは5席しかないカウンター席でビールを飲んでいる常連のおっちゃん連中と、テーブルが1つ2つ埋まっていればいい方。そんな状態で1500ユーロの家賃とシェフとウェイトレスさんの二人の給料が払えるはずもなく、2年経たずして閉店の憂き目となってしまった。


そもそもの疑問として、そんなにいいレストランならなんで流行らないかというと、まずは、とんでもないイナカであるということ。夕方6時になると歩いている人がいなくなるような町。そこにつけて、ドイツ人の気質というか生活習慣が出てくるんだわ。


というのも、日本だったら会社帰りにちょっと一杯で居酒屋に行くというのは割と普通(イナカだと町まで出ないといけないというのはあるけどね)。この文化がドイツにはないんだわ。何かしら、イベントがあるとしても都会はしらんけどこの辺りのイナカでは20人位の集まりなら平気で自宅に呼んでしまう。


なので、レストランとかパブの出番がことのほか少ないと。しかも、このレストランはそのこじんまりとした作りから大きな収入源になり得る大規模な集まり、特に結婚式などのイベントもできないという問題もあり。まあ、このように落ち着いて考えると、このレストラン、なくなる運命だったんだよねえ。残念ながら。


というわけで、行き場をなくした私達。行ってみたのよ。町の中の別のレストランに。いやはや、すごかった。


入り口。


この時点で察しておくべきだった。無理やり良く言えばアンティーク調の家具。ありていに言えば、80年代くらいから何もしていないのだろう、その旧態依然とした趣がダメダメ感としてオーラとなって私に襲いかかってきた。


ドアを開けた瞬間の風景。私の印象は全く間違ってなかった。変化とか改装とかそんな言葉を20世紀に置いてきてしまったレストラン。2000年代ももう14年経とうというのに、ドイツの片隅でその流れから完全に取り残されている。


そして、なくなってしまった別のレストランと同様、土曜の夜だというのにお客がいない。まさかみんな「土曜の夜は羽田に来るの」というわけでもなかろうに。いや、いたよ。


…お隣の席にうさぎ(のような)ぬいが。


実はですね…ここに行ったのはイースターの頃だったのね。これ、このレストラン並みにいちおうのデコレーションをした結果がこれ…というわけ。入り口の写真もそう。よく見ると、うさぎのぬいがいたでしょ。


時期的にはアスパラガスが旬でした。毎年ドイツのレストランでは「春のアスパラガス祭り」が開かれるのよ。というわけで、このレストランでもアスパラガス料理がオススメになってまして…


アスパガラスのスープが前菜。…まあ、美味しかったですよ。クリームとバターを惜しみなくふんだんに使ってまして。まあ、言い方を変えると、それだけのクリームとバターを使って美味しくなく作るほうが難しい気がする。


こちら私のメインコース。アスパラガスと生ハムのクリームソース添え。…って料理が届いて気がついたよ。またクリームかよって。もっとも、クリームソースが嫌だったら、溶かしバターだったというあるいみ究極の選択。私がここ数ヶ月で数キロ太ったらしいという事実は想像に難くないと思う。危険だよ。この国。


こちらCさんの「サラダ」。もはや多くを語るまい。健康志向にサラダを頼んだところで…肉しか見えてねえぞ。


というわけで、私達、実はレストラン難民になってます。…いや、実は車でしばらく走ったところに一軒発掘したんだけど…その話はまた気が向いたら。