袖触れ合うも…いろんな人と出会ったドイツまでの移動(上)

日曜日の朝。男子寮から空港へ向かう。


アイルランドの日曜日の朝って、遅いんだわ。目覚めるのが。ダブリンバスはそのほとんどは朝の9時とか10時とかにならないと運行を始めないし、そもそもどれだけそんな人がいるかは知らんが敬虔なクリスチャンなら教会に行かないと。


なんか知らんけどね、うちから徒歩15分ほどのところにある大通りには朝の8時前からバスが通ってるの。そこまで歩いて始発バスに乗り、街から空港行きの急行バスに乗ろうという計画。さすがに空港行きのバスは日曜でも7時台から運行してます。

(写真が見られないという、この投稿したての記事を読んでくださっているあなた。はい。コペンハーゲン空港のWifi、ftpサーバーへのport21のアクセスが拒否される設定に変えられたようで写真が上げられません。たぶん明日あたりにご覧になれば何気なく写真は掲載されていると思われます)


幸い寒かったけど快晴。朝日が昇ろうとしているダブリンの郊外の空気は冷たいけど気持ちがいい。お気に入りの音楽を聴きながらてくてく歩き始める。まあ、見事なくらい誰もいない。車も通らなければ、まだ犬の散歩をしている人すらいない。


そこに通りがかったのは空車のタクシー。残念でした。今朝はバスに乗るのよねん。と思っていたら、わざわざタクシーがその先のラウンドアバウトでUターンして戻ってきたよ。機内持ち込みのできるサイズのスーツケースをごろごろ引っ張る私、もしか乗るんじゃないかと一縷の望みを抱いたらしい。まあ、望みを抱くのは自由ですが…乗らないよぉ。


運転手:「おはよう。大丈夫?」


…はぁ、お気遣いありがとうございます。おかげさまで天気だし、気分よく散歩がてら歩いてますけど。


運転手:「どこ行くの?」
私:「空港」


私は心の中でキタキタと思った。今から10年ほど前だったか、ケルティックタイガーとか呼ばれる空前の好景気の中、タクシーのDeregulation、よーするに規制緩和が行われてタクシーの数がえらく増えたのね。景気がよかったころですらだぶつき気味だったタクシー、バブルが弾けてその台数はもうあからさまに過剰で、バス停でバスを待ってたらコバンザメタクシーはやってくるし、こうやって頼まれてもない「営業」を始めようというわけ。


ちなみにうちから空港まで、出張費の名の下でタクシー代が出るときは知り合いのタクシーの運転手さんにお願いして空港まで送ってもらっている。そのときの費用は40ユーロほど。なので、鬼な私は20ユーロなら乗ってやろうと心に決める。はい、その言葉自体通じるかどうかわからんけどエントツというやつですね。


運転手:「乗ってかない?」
私:「いあ、いいです。もう、バス、来るし」


…と一度断る。もちろん、運転手さん、こんなところで諦めない。向こうだって必死だしね。まあ、考えてみると、タクシーの運転手さん、大変だわ。


運転手:「まけてあげるよっ」


ほら来た。


私:「いくら?」
運転手:「30でいいよっ」


…ふむ。確かに通常より安い。だけど…


私:「30なら乗りません。だって、そこから出るバスなら、街まで2.5ユーロ、そこから6ユーロで8.5ユーロで乗れますから」


そう、しかも時間もあるので、タクシーで空港まで急ぐ理由はあまりない。まあ、強いて言えば、バス停でバスを待つ手間がなくなるくらいかな。ここで、もう一声きたら20ユーロに鬼交渉しようと思っていたが、運転手さん、諦めた。…あら、意外と諦めが早い。


バスを待つのは苦痛です。だけどさあ、昔に比べると状況は劇的に改善されてるのね。書くバス停には番号が振られており、その番号をダブリンバスのサイトに入力すれば、運行状況が一目でわかる。それによると、あと5分でバスが来る。


バスが来た。


私:「空港まで行きたいんですけど、どこで乗り換えるのが一番賢いですかね」
運転手さん:「XXだったら同じバス停だね」


…あー、思いもよらない答えが返ってきた。確かにそのバス停なら急行バスも通る、同じバス停だわ。空港バスはほかのDepot(営業所)のバスなのに的確な答えが返ってきた運転手さんにちょっと感心する。


かくして、到着のバス停。降り際に運転手さんは…


運転手:「急行バス、あと13分でくるから、ここで待っててねー」


…と言い残して颯爽と走り去った。なに、気持ち悪いくらい優しいんですけど。


バスを降りると、そこにはまあ、きれいな女性がバスを待っていた。すらっと私より身長が高く、体重はたぶん私よりはるかに軽い。ハイヒールを履いているのかと思ったが若干のヒールのあるパンプスで…顔立ちも整ってて、まあ、ありていに言えばモデル体型の若い女性。小さなスーツケースがまた様になっていて、そのままそのスーツケースの広告写真にでもなりそうな雰囲気。その女性が私に話しかけてきた。


女性:「まだバスは30分ほど来ないみたいですね」
私:「いや、別系統のバスも来ますから、あと10分ちょいで来ますよ」
女性:「あら、そうなんですか」


きれいな英語を話すし、おー、これは才色兼備…いやはや…などと思っていると…


女性:「このあたりに、ATMがあるかご存知ですか」


へっ?ATM?いや、このあたりには…ないぞ。こと、この時間帯では。


私:「ええっと、ここから10-15分歩いたところにあるコンビニの中にあるでしょうけど…遠すぎますよね。空港で使うのがいいと思いますよ」


女性:「そうですか。バスはイギリスポンドを受け付けてくれるかご存じですか?」


なーんか大昔に運転手さんによっては非公式に受け付けるようなことは聞いたような気もするけど、常識で考えて、無理(日本の空港のリムジンバスに乗るのにドルかユーロ差し出されても、運転手さん、断るよね)。


私:「それ、無理ですよ」


美人は得なのか、私がお人よしなのか…


私:「別にいいですよ。私、よくイギリスに行きますから、英ポンドと両替しても」


その女性は嬉しそうな顔をして(これがまたきれいだった)…


女性:「本当ですか。助かります」


…ところが、この女性、英ポンドすら持ってない。小銭がジャラジャラ3ポンドくらいあるだけ。才色兼備だなんだ褒めたけど、よく考えたらバスに乗るほどの小銭すら用意してないって、つきあってみたらけっこうすっとこどっこいな人だと気がつくような気もしてきた。


私:「わかりました。私がとりあえず立て替えますから、空港で払ってください」


女性:「本当ですか。助かります」


…かくして、美人とバスの待ち時間を含めて30分ほど楽しく過ごすことができました。鼻の下が長くなっていたことはたぶん否定できません。でも、言うまでもないことですが、空港到着後債権(ってたったの6ユーロ)はきっちり回収いたしました。


ここで話が終わるはずが、まあ、この日はネタの宝庫だった。長くなったのでひとまず続く。