翌日。朝の10時にアポがあるというので、朝の10時きっかしに近所の家具屋に向かうCさん、C父母、私の4人。偶然なのか何なのか、担当者が店の入口で私達の到着を待ち構えていて、私達4人と握手する。
C父母が来たので、担当者、もう一度ショールームを案内してくれる。1周したあとで…
Cさん:「…というわけで、これが一番いいかなーと思っているのだけど」
C父:「この材質はなんですか?」
店員:「こちらは、天然木のなんちゃらです」
C父:「材質はいいものを使っているようだね」
…ふと見ると、C父、床に這いつくばって何を見ているかは知らないが、ワードローブの品定めをしている。…もしかすると、私達は最強の援軍を呼んできたのではないだろうか。
んじゃ、やっぱりこれにしようと、目をつけていたワードローブを選ぶ。ここからがまた騒動だった。かっこ良く言えばオーダーメードにしたのね。その相談をするために、売り場の片隅にある事務机に移動。うわー、XPで動いているのはまだいいとして、中にある注文のソフトウェアはウィンドウズ95の頃の骨董品だぞ。
まず、容量を増やすために壁2面に面したL字型にしたのね。ところが、L字型にすると、どうしても6枚扉が収まらなくなることが判明。えーっと困っていると、店員さんが「じゃあ、この真ん中のワードローブを(50センチの扉が2枚の)1メートル幅ではなく、(40センチが2枚の)80センチ幅にしましょう」…と言い出す。あら、そんなこともできるのねん。
それから、やれ引き出しをつけるだの、角の部分はウォークイン式にするだの(じっさい余裕でかくれんぼができる広さがある)いろんなことを言い始める。…おいおい、いったい、これ、いくらになるんだよ。
開店と同時に入店して、もう時刻は午後1時半。2杯めのコーヒーも飲み終わり、ついにその時がやってきた。
店員:「それではいくらになるか計算してみますね」
ワードローブの基本セットが3,80センチ幅が1…
(…以下延々続く。数分後…)
店員:「…というわけで、全部で…ユーロですね」
いやいやいやいやいや…それ、一番安い新車が買える値段。なんのひねりもない表現だが、目ん玉が…飛び出た。
店員:「…なんですが、現在35%引きのセール期間中ですので、…ユーロになります」
…飛び出た目ん玉は元には戻らないが…若干安く感じたことは事実。ただ、まあ、これって、最初に高い値段を聞かせておくとあとから出てきた値段がお買い得に感じるというセールストークの基本を忠実になぞっているだけのような気がする。
私はCさんの袖を引っ張って…
私:「おい、これ、どーすんだよ」
C:「どーするって、買うのよね?」
私:「買うにしても、おい、ドイツって、こんな時、値引きを言い出してもいいものなのか?」
C:「必ずしもしてはいけないというわけじゃないと思うけど?」
私:「よし、わかった、この端数の358ユーロってのを削らせろ。いいな?」
C:「やってみるわ」
というわけで、端数なんだかどうかわからない数万円を削らせる交渉開始。
店員:「…店長に相談してきます」
…。なんか日本で車を買ってる気分になってきたよ。日本のカーディーラとかでもきっと同じこと言うよね。新車買ったことないけど。
数分後、「店長と相談」してきた店員さんが帰ってきた。
店員:「店長が、クリスマス後ですし、特別に、158ユーロなら値引きしてもよいとのことです。ただ、すでに特別価格ですのでこれ以上のお値引きは致しかねるとのことです。これは、本当にお買い得…」
はいはいはい。よーするに、端数はばっさり切ってくれないのね。これは、もうちょっと交渉の余地があるかなあと思い、私が口を挟もうとすると
C:「じゃあそれで」
違うだろお。ここは、ハンコチラリ作戦だろうがあ(契約書に押すハンコをちらりと見せ、もう少しで契約をするという意志を見せることで、さらなる値引きを要求する作戦…なのだが、もとより、ハンコは日本特有の文化だった)。
かくして、さすがに新車は買えないが、そこそこの中古車は買えてしまう値段のワードローブ一式の購入契約書にサインさせられる私。いや、正確にはサインしたのはCさん。私は横で見てただけ。だけど、当然、半額払うハメになるわけで。
店員:「それでは、納期は3月の初旬になります」
…はぁ?なんで2ヶ月もかかるんだよ?そんな思いが思わず口をついて出る。
私:「2ヶ月もかかるものなんですか?」
ここで逆に私の袖を引っ張るCさん。
C:「いいのよ。それで、床の張替えとか、壁紙とかで時間かかるから」
私:「はぁ?んなもん、さあ、せいぜい1週間もあればできるだろうが」
…この認識がとことん甘かったこと、そして、Cさんの見立てが正しかったことは後で思い知ることになる。でも、まあ、これはあとの話。
うちに帰ってCさんがいうのだ。
C:「あの店員さん、店長に相談してくるとか言って、ホントは、きっと事務所を1周してきただけよね」
…お前、それがわかっててなんでもっと交渉しないんだよ。
私が彼女の頭をはたいたことは言うまでもない。