ドイツの民主主義について考える

…なんてお硬い表題ですが、実は内容は大したことがないというか。


9月11日は、私の住んでいる某所でドイツの地方議会選挙が行われました。…と言いましても、外国人の私には投票権などなく蚊帳の外でしたけどね。選挙の後にそのまま遊びに行ったので、嫁を投票所まで車で乗せていった。それだけの話です。


私の住む某イナカの村、人口数百人程度の小さな村なのですが、ここには日本的な「公民館」とか「コミュニティ・センター」とか呼ばれるようなお上が作った施設はありません。幼稚園はあっても小学校以上の学校はすべて近隣の(比較的)大きな街まで行かないとないのです。


んじゃ、投票所はどこなのよ…というと、村に唯一の民宿兼レストランで行われました。まあ、便利な場所なんですよ。村の冠婚葬祭のうちの「葬」を除いた冠婚祭は全部ここで行われることは知っていたのですが、まあ、選挙までここなのね。蛇足ながら、天邪鬼な私達の結婚式はここでは行ってません。会場が小ホールでは小さすぎて、大ホールでは大きすぎたのです。


この日はこのレストランにとって書き入れ時の日曜日、誰かの誕生日パーティーかなにかが小ホールで行われていたらしく、選挙は駐車場に面した小部屋で行われていた。


入り口に佇んでいたら、投票用紙の見本が貼られていた。


…ふーん、選挙別に色が分かれているのね…と思ったら、その看板の裏側を見て絶句。


なんじゃこりゃ。


この白い紙、投票用紙の見本なんです。ちょうどこの看板が、フリップチャートよりちょっと小さいくらいの大きさだったから、この白い投票用紙、変B3版くらいの大きさがあるんじゃないだろうか。


そもそもなんで投票用紙が4枚あるかというと、一枚目が市議会議員の投票用紙。候補者が68人もいて、かつ、日本のように投票したい人物の名前を短冊ほどの大きさの紙に書く記入式ではなく投票したい人に☓(バツ)印を入れる方式なので、こんなに無駄に紙が大きくなるらしい。しかも、投票用紙が政党ごとに立候補者がまとめられていて、名前はもちろん、生まれた年、職業まで書いてある…そりゃ紙も大きくなるわな。


さらに状況をややこしくすることに、これだけ人数が多いからなのか、お一人様1票ではなく、なぜか3票投票できる。なので、日本的に言えば、自民党の田中さんと民進党の佐藤さんと公明党の山田さん全員に投票…などという八方美人な投票もできるらしい(注:これ、地方によって違うらしいです)。


もうこの時点で?なのだが、上の例で行くと、いや、俺は自民党の田中さん一筋だからと田中さんに一人で3票投票することも可能。あるいはもう考えることを拒否した人は、自民党という政党に3票投票、ということもできるらしい。…なんてややこしい、一体どうやって開票作業をするのやら。

(白い投票用紙を無理やり拡大。○の中にX印を入れます。一番上の政党名のところにXを入れるのも可)


その巨大な投票用紙の下に隠れているのが、私が「村」と呼んでいる、日本的に言えば「地区」の議員さんの緑色の投票用紙。人口数百人の村なので、立候補者も少なく立候補者もたったの9人(何人当選したかは知らない)。SPDとCDUはわかるのだが、UWGという聞いたことのない政党も3人候補を出しているらしい。こちらもたった9人しか立候補してないのに一人3票投票できるらしい。小さな村のことなので、数人の候補者の名前は私ですら知っていた。…ってかこの投票所の民宿の持ち主も立候補してるじゃねえか。


ちなみにあとの2枚は黄色が県議会議員(3票)、小さな青いのは州議会議員(1票)の投票用紙ということが判明。ちなみに、国政に直接影響する連邦議会選挙はこの日の投票とは無関係だった模様。


それにしても、村というか、近所の十以上の地区からなる「市」の議会はともかく、人口数百人の村にまで議会は必要なのかな…と思ったのだが、どうも話を聞くと、議会というほどのしゃちほこばったものではなく、ご近所の茶飲み話の延長くらいにある感じの緩いものらしい。


嫁とそんな雑談をしていたら、嫁がとんでもないことを言い出した。


「うちのお母さん、10年くらい前に村議会議員だったよ」


は?


まさに持ち回りの町会の役員のように立候補する順番が回ってきて、とある政党公認で立候補、当選して議員さんになったんだと。なお、議員は無報酬。1期のみ勤めてやめたらしい。以来、その政党の支持はしているものの特に活動はしていないらしい。まさに「普通のおばさんに戻った」状態(←言うことが昭和で誰にも通じない)。


なんの活動をしたか聞いてみたら、隣村までの市道に歩道をつけるように働きかけたらしい。そして、その努力が実って歩道が設置された。


…あら、この歩道、嫁母の功績なんですか(もちろん彼女はその一部というだけですが)。


駐車場から投票所が丸見えだったので嫁が投票を終えて出てくるのが見えた。投票の立会人らしき人が3人ほどいるのだが、その前に瓶がおいてあってその瓶に嫁は小銭を入れた。何かと聞いてみたら


「あの人たち、無報酬(ボランティア)で日曜日なのに今日の作業してるから、『コーヒー代』として小銭を渡してきたわ」


とのこと。なんだか知らんけど、ドイツの草の根選挙は金権政治とはまったく無縁のようです。