「環境先進国」ドイツのゴミ処理場に行く


土曜日の朝7時半。この活動を開始するには早過ぎる時刻に、私は隣町の嫁の姉の新居の前にいた。なんでも引っ越しらしいのだ。ダンナと家を買ったらしい。そう、2050年ローンの旅への出発。私はそのお手伝いにイボイボつきの軍手持参でお手伝いに馳せ参じたと。


ご存知の通り、こちらでは家は建てるものではなく、買うもの。確かに新築で一から計画することもできるけど、そもそもそのような物件が出てこないし、より高くつく。なので、自分の住みたい街にできるだけ条件の近いものを選ぶ…というのが基本。


嫁姉の場合、ダンナの勤務先までの住所、そして、両親と程々の距離の場所、あとは娘の部屋が確保でき、できるかぎりそのまま住める家…とその他細かい条件は端折るとして、もちろん予算だって限られてる。そんなこんなで家を探し始め、二桁の家の内見のあと、ようやく隣町に条件に合致する家を見つけたらしいのだ。


最後の「そのまま住める家」に関してはちょっと解説が必要かも。例えば、同じ街の同じ通りの二軒並んでいる家が売りに出ている。建てられた時も同じで同じ間取りなのに、一軒は500万円、もう一軒は1000万円…なんてことがありえるのです。


まあ、ご想像のとおり、その家にどのくらい手入れがされているかにより値段が平気で変わるんですよ。ずっと手をかけられてきた家は特に何もしなくてもそのまま住めるけれども、そうでない家はいろいろ手直しが必要と。


例えばね、窓が二重窓かどうかによっても値段はだいぶ違ってくる。二重窓だと熱効率がだいぶ違ってくるのよ(よーするに、暖房の効きが違ってくる)。で、嫁の姉はちょっとくらい高くてもいいからそーゆー手間のかからない家を探していたわけ。


嫁姉の問題はね、この隣町に見つけた家に恋をして盲目になってしまったこと。他の家はもう目に入らなくなった。で、価格などの条件も売り主の(私に言わせればホントかウソかわからない)「他にも(この家に)興味を持っている人がいるんですよねえ」という言葉を信じて相場と比べてもやや高めの値段で買うことを決めてしまう。


びっくりしたんだけど、私の知るかぎり、家の売買には銀行の調査が入るはずなのよ。銀行から例えば1000万円の住宅ローンを借りるのに、本当にその家に1000万円の価値があるかどうかは担保を取るという意味では重要でしょ(頭金とかの話は面倒だからこの際忘れましょう)。なのに、そんな調査がなあなあのまま終わってしまっていた。


で、鍵を受け取ったあとに出てくる出てくる問題点。最大の問題点は、引き込みの電圧が380vじゃなかったこと。なんじゃそれって、日本の家庭用の電圧は100vで、ヨーロッパは220vから240vですよね。あれ、380vってどこから出てきたのよ…って話になる。


私も知らなかったのでしたり顔で語ることはいささか気がひけるのだが、最近のドイツの家はIHなどの普及で、台所用などに家庭には380vの電圧が来るのが基本らしいのだ。それを220vに変圧して使うというわけ。で、その家には380vでの引き込みがなかったと。


まあ、怒り狂う嫁父。


「聞いてねえぞ。この家はすべてが完璧に手入れされているって話じゃねえか。もし、道路を掘り返すことになったらいくらかかると思ってんだ」


…いや、私に言わせると、そんな基本も調べずに家を買っちゃうことのほうがおかしいと思うのですが、余計なことを言うと怒られるので黙っていた。


そうなんですよ。某新都知事が電線の地中化を進めるという政策を出してますよね。私は諸手を上げて賛成です。あの東京の下町に行くと、蜘蛛の巣のように張り巡らされた電線、あれ、近いうちに起こるとされる首都直下型地震の時、議論の余地なく避難の妨げになりますよね。電柱の地下化は焦眉の急と思うのです。まあ、言われているように、反面、こんな時に道路を掘り返すことになるので、確かにお金はかかりますよね。


話が際限なく脱線していくのですが、うちの前の市道、もし舗装をし直すとすると、なんとうちが全額だか一部だかは知らないですが。うちが負担するらしいです。あとね、雪が降った時、うちの前の歩道の除雪はうちの義務なんですよ。信じてもらえるかどうか、もし、うちの前の歩道が除雪されておらず歩行者が怪我をするようなことになったらうちに責任が来るとか来ないとか。にわかには信じられませんが、ドイツにはわけのわからん規則がたくさんあります。


話を戻すと、電気屋さんに来てもらった結果、屋内のブレーカーの更新だけで道路に穴を掘る必要はないとのこと。おかげで費用も心配した程ではなかった(それでも私的には大金)。ほら、自分で価値のまったくわからない壺、最初に20万と聞くと高く感じるけど、50万と聞いたあとに20万と聞くと安く感じる…アレですよ。


ただし、家の中のすべての配線の更新が必要とかで、かなりの大工事が必要となる。さらに、暖房装置も手入れが必要で、さらにはあーだこーだ(←途中から話を聞いてなかった)で、家の中の相当の手入れが必要と。


困ったことには、今まで住んでいた賃貸アパート、ちょうど更新期だったかなんだかで契約の解除をしてしまったらしいのだ。新居は間に合いそうもない、現在のアパートは退去しなければならない…という追い詰められた状況での引っ越しとなった次第。


…長い長い話の前提になりましたが、そんな引っ越しだったのです。


話は土曜日の朝の7時半に戻ります。呼ばれたとおりに退去するアパートに到着。嫁姉ダンナが家におりまして…


「じゃ、運転よろしく」


…はい?


「この大きなバンの運転手は君だ」


…はい?保険は?


「それは大丈夫、すべての運転手に無制限の無制限の保険がついているから」


ちょっと待ってよ。ここまで誰が運転してきたの。


「俺の弟だ。俺は、こんな狭い道、こんなでかいバンの運転はできない」


…聞いてないよー。


「去年、結婚式の後、ミニバン運転して1500キロも旅しただろ?」


はい。未だにこの日記のネタにしてないんだけど、結婚式の後、うちの両親他を連れて8人乗りのバンでドイツ南部まで旅に出たのよね。まあ、確かにあのバンが運転できれば、このバンが運転できない理由はない。


幸か不幸か、私、実家の家業の関係で免許をとった時にそれころ軽からジープ、さらには小型のトラックに至るまでいろんな車を運転する機会に恵まれたのです。そんなわけで、大きな車は確かに怖いけど、「運転できない。無理」とはならないんですよね。なぜか日本国内で左ハンドルの車もかなりの頻度で運転したし。


すでに、バンにはなにやらいろいろつめ込まれている。


「それじゃあゴミ処理場へ行きますか」


…私が運転することはすでに決まっているわけですね。


さすがはドイツ人というべきか、車で20分ほどのゴミの最終処分場に着いたのは7時55分。ゴミの最終処分場は8時開場。そう、7時半は計算しつくされて得られた最適解だったのね。


人生初のドイツのゴミの最終処分場。アイルランドのそれとほとんど同じだった。入り口で車ごと重さを量って、出る時の重さとの差でその費用を払うと。


バンの車内にすでに乗せられていたのは台所(死語なんじゃないかという言葉を使わせてもらえば「システムキッチン」)。


また話が横道に逸れるんだけど、ドイツでアパートを借りようとすると、家具はもちろんのこと、台所すらついてないことが多いのよ。そう。台所は自前。なので、引っ越すときに台所は処分することに。誰だ、「ドイツは環境先進国」とかほざいたアホタレは。


そんなわけで、指定された場所に、元台所の木材(棚ですね)を捨てる。さらに、オーブンも処分。

(冷蔵庫や洗濯機は別に処理されるらしく、コンテナ内に運びこむ)


ゴミの最終処分場の訪問の後、退去するアパートに戻ってみると、すでに男手が揃っている。午前8時半に集合がかかっていたらしいのだ。この計画性の高さ、正直舌を巻くわ。


ソファーからベッドなどが手際よくバンに積み込まれていく。結局2往復で、私の背丈よりも高い冷蔵庫、果ては自転車まで運び終える。


バンをレンタカー会社に戻したあと、新居へ。新居では手伝ってくれた人へのお礼の昼食が用意されてまして…


…はい。紛うことなくドイツです。ありがとうございます。


そんなこんなで、半日で引越し完了。その夜、嫁姉夫妻がうちに来る。


「うち、台所がないからしばらく泊めてね」


…確かに嫁姉が過ごしていた部屋が余っているので問題はないのですが…聞いてないよ。


なにそれ、という方。新居の台所があと3週間ほど配達・設置されないらしいのです。「できるだけ新居に泊まる」と言ってましたけど、私なら台所のない家なんて住めません。なので、うちに入り浸りになるんだと思います。


そのあとどーなったかは私の知ったことじゃありません。だって翌日、恒例のダブリン出張となりましたから。