【2015ドイツ式結婚行進曲:3】市役所での結婚式

 さて、今回は話の本丸、結婚式当日の話(前編)です。


そもそもが…です。国際結婚は思った以上に面倒でした。思い出すのも面倒なのでさくっと書いてしまうと、日本の法務省から私が結婚できるという証明書を発行してもらい、それを外務省で「アポスティーユ」なる、よーするに「この書類はほんものですよー」という証明をしてもらい、さらにそれをこちらの正規の翻訳業者で翻訳してもらい、それを市役所に持ち込んで担当者とアポイントを取って書類の審査(所要数時間)。まあ、言葉にするとたった数行だけど大変な騒動だったのだ。

(日本の地元の法務局が出してくれた書類の上から外務省が「アポスティーユ」をつけて押印してくれた書類。これを資格のある人にドイツ語にしていただきました)


この状況をさらにややこしくしたのは私のトホホなドイツ語能力。まあ、ドイツ語の能力…ないんだわ。だって、仕事は全部英語だしー。なので、式のために「通訳を見つけてこい」という難題を突きつけられる。英語でもいいかと聞くと、市役所の頭が御影石並みに硬い担当のおっちゃんに拒否される。


もう何百回書いたかわからないいつもの口上。私の住む、ドイツ某所、イナカなんです。とんでもないイナカなんです。こんなイナカに日本人が、あるいは日本語が話せる人がいるわけがない。ましてや通訳をや。
どこから見つけてくればいいんだろうと頭を抱えていると、まあ、世の中には意外なことがあるもんだ。私の住む村の近所(注:イナカの尺度での近所)に、こともあろうに日本人が住んでいることが判明。しかも、その日本人が通訳さんだという。


おそらく宝くじに当たるよりも難しい確率の奇跡が起こった。この方、名前をケイコさんとしよう(仮名)。ここからの話、このケイコさんなくして進めることができない。


ケイコさんへの最初の仕事の依頼は結婚式の数カ月前に市役所に出頭したとき。市役所のお役人様が通訳を連れて来い、しかもちゃんと通訳しないと結婚式やってあげないけんねとさんざん脅されてケイコさんにお仕事を依頼。


ケイコさん、事前の打ち合わせとして自宅におじゃましても嫌な顔ひとつしないどころか、お昼ごはんまで作って待っていてくださった。で、日本語で書いてあっても読む気がしないようなお役所仕事なドイツ語の文書をきっちり翻訳して(ケイコさんは厳密には「通訳」が仕事で「翻訳」は本来の仕事ではない)当日に臨んでくださるという。


そして、結婚式当日。


お天気にも恵まれた8月のある日…と書けば響きはいいが、その実、この週はドイツでは珍しい30度超えが続く真夏日、クソ暑い夏の日の朝、市役所へ。新郎たる私、レンタカーのミニバンを自ら運転し(レンタカーの契約上ほかに運転できる人がいなかった)、市役所へ。


市役所の結婚式はねえ…他は知らんけど私の住む某市の場合、市役所の会議室のような場所で執り行われる。どっかの公民館の会議室でも思い浮かべてくださればわかりやすいかも。そう、通訳をわざわざ連れて来い…というところからも分かる通り、日本みたいに(…って日本で結婚したことないんだけどさ)市役所の窓口に書類を提出すればおしまい…というわけにはいかないのだ。

公民館の会議室だから当然入れる人数などたかが知れている。中に入ったのは両家の両親と(書類に署名する)証人とその連れくらい。あ、それともちろんお役人様と通訳のケイコさんね。


午前10時に式開始。まずは本人確認。そしてお役人様のスピーチが始まる。…そう、スピーチ。なんて言ったらいいのかな、ほら、教会での神前結婚式で神父さんだか牧師さんだかしらんけどが結婚や人生についてのありがたいお話をしてくれるじゃないですか。あれをさ、市役所のお役人様がやってくださる感じといえばわかってもらえるかな。


教会の話が出てきたので一瞬だけ脱線をすることを許してもらうと、私達、教会での結婚式はしませんでした。そもそも私が異教徒の民だし(…って冗談めかして書いてるけど、まあ実際家は仏教)、嫁だって最後に教会に行ったのはいつだっけと遠い目をしてしまうレベル。クリスマスすら教会に行かないという不信心者なのだ。なので教会で結婚式をしようということは話にすら出てこなかった。


ちなみに教会で結婚式をすると市役所での結婚式はどーなるかというと…端折ることはできない。つまり、教会での結婚式は希望制で、市役所での結婚式は義務だということ。


もうちょっと脱線することを許してもらうと、結婚証明書…みたいな書類を後でもらったのね。それを見ると、日本の常識からはにわかには考えられないのだが、なんと各人の宗教欄を書く欄がある。嫁の方にはカソリックだかプロテスタントだか知らんがそう書いてある。大して私は…というと、名ばかりの仏教徒…と書いてあるかと思いきや、なんと空欄!


これは私が書類に書き損ねた可能性もないわけではないが、嫁の言葉を借りると


「ドイツでは仏教なんて宗教として認められてないわよ。だからじゃないの?」


私達の結婚式に話を戻す。ありがたいお役人様の法話…じゃないお話は、なんとこともあろうに日本昔話から始まった。つまり、いつも同じ原稿をロボットのように読んでいるわけではなく、毎回スピーチを書き直しているということ。実際、新郎新婦の子供時代から馴れ初めから結婚に至るまでの人生を話し始めることもあるらしい。私達の場合は、昔話が中心になっていたけどね。


その昔話って…どこで調べてきたのか天王山のカエルのお話だった。このお話から結婚の重要性について語るという思えばどこの日本通が作ったんだ…っていう話だった。


このありがたいお話を聞きながら、雇ったカメラマンさん(女性だけど、カメラウーマンってあんまり一般化されてない言葉のような気がするからカメラマンで)がぱちぱち写真を撮ってるのね。なので、私も少しだけ気にしてありがたい話をしているお役人様と通訳のケイコさんを互いに見ていた。これにあとで文句を言われた。…嫁に。


鈍感が服を着て歩いている私は、どうも嫁がずっと私に送っていたらしいのだが、その目線に全く気がつかなかった。聞けば、嫁の常識(ひいてはおそらくドイツ人の常識)はこのありがたいお役人様のお話を聞きながら、新郎新婦お互いに見つめ合って「ボクたちって幸せだね(はあと)」とやるべきらしい。そんなこと聞いてない私は、失礼があってはいけないと一生懸命お役人様とケイコさんの顔を見ていた。…ってか、仮に知ってたとしてもそんな気恥ずかしいことできるかっつうの。


けっこう式の最後の方になってふっと嫁のほうを見たんだわ。その時ずっとこっちに「このバカタレ、こっちを見んかい」と目線を送り続けていたらしい嫁と当然目があった。瞬間カメラマンさんから写真をばちばち撮られた。この瞬間にどうも私は間違っていたらしいと気がついたんだけどね。なら、嫁もテーブルの下で足を突くくらいのことをしてくれればさすがの私でも気がついたと思うのだが。


なぜかは聞かないでほしいが、ドイツでは結婚指輪を右手薬指にする。それはいい。…いや、あまり良くない。左手に比べて、例えば炊事の時とか指輪をこする可能性が左手より遥かに高いことに気がついた。1年近く経つ現在、指輪は傷だらけ(俺の人生みたいだ…なんてベタなことは言わない。言わないんだってば)。で、これを嫁の指にはめようとしたんだけど…思い出してほしい。この日は30度もある真夏日だった。そう、指に指輪が入っていかないのだ。正直無理やり押し込んでやった。なお、嫁がブログを書いていたら、おそらく全く同じことを私に対して書いていたに違いない。

(本人に自覚はないのだが、どうもこの紙にサインをしたことで私の人生は終わりを告げた…じゃなかった、別のステージに移行したらしい。)


まあ、話を戻そう。そのありがたい話の後に、書類にサイン。そして、例の質問にはいと言わされる(そうしないと式が進まないもんでね)。そうして、私たちは法的に結婚してしまった。


思い出を語ればきりがない。失敗を語ればきりがない。なんか知らんがドイツに家を買えるくらいの金額を航空会社に寄付してドイツとアイルランドを行ったり来たりして、ようやく結婚できました。
「家を買えるくらいの金額」ってまんざら冗談じゃないんですよ。スタアラ関連だけで650回以上ヒコーキに乗ってます。私の住むドイツのイナカならその金額で家を一軒買うことは十分可能です…って全く自慢にならないな。

(これならギリギリ大丈夫だべえ…という嫁と私のツーショット写真。


このあと、室内でスパークリングワインを開けて乾杯。運転手の私はノンアルコールのスパークリングワインを飲む。それで式は終了。1時間もかからなかった。【続く】