ドイツの某鉄道の車両故障の悲劇(下)

前日の日記の続きです。読んでない人はそちらから


かくして、突然列車が故障して何もない無人駅付近で捨てられた私。ヒコーキの離陸時刻まであと70分。列車なら、乗り換え無視でも1時間近くかかる距離。さて、このピンチからヒコーキに間に合ったのか…というお話の続きです。


無人駅。定刻よりおおよそ5分遅れで反対方向への各駅停車がやってきた。その列車の運転手に詰め寄る情報がなくイラついている乗客たち。だけど、運転手さんは、「見ての通り、この列車はハノーヴァーには行かないよぉ。逆方向だよぉ」と言うのみ。私は最後の瞬間まで悩んだが、賭けに出た。このまったく逆方向行きの列車に乗った。


この逆方向の列車に乗るなり、案の定といえば案の定、1時間後の後続の急行列車とすれ違った。この列車が件の無人駅に臨時停車したのか、また、したとすると全員を乗せることができたのか…今となっては永遠の謎。いずれにしても、そっちに乗っていたらヒコーキには間に合っていない。


おおよそ5分で、この列車は次の駅についた。この列車の終着駅。つまり、特急列車も停まるような大きな駅なのね。 この駅に着くなり私はまず銀行ATMでお金を下ろす。そして、タクシー乗り場へ。


タクシーの運転手さんに窓越しに…


私:「乗る前に聞く。ハノーヴァーの空港に30分以内に着くことはできる?できれば100ユーロ払うっ」


タクシー運転手さんの回答は…


運転手:「私はタクシー運転手だ。飛ばすのは任せなさいっ」


商談成立。タクシーに乗り込むと…正直想定以上の事態になった。ちなみに、無人駅でタクシーを捕まえられる可能性は絶無。まあ、呼べば来てくれたろうけど、どれくらいかかるかわからないし、タクシーがこの大きな駅なら待機してくれていること、そしてこの駅から高速のインターまでほど近いことなどを考えると、ひと駅列車に乗ったほうが正解だとその時は思った(そして、それは正解と思う)。あ、今気がついた。この区間、厳密に言えば不正乗車だわ(まあ、そもそも鉄道会社のせいでひどい目にあっているわけだし、無人駅から先の区間の運賃をまるまる無駄にしているんだからそんなことで文句を言われたら本気でキレるけどさ)。


そもそもこの駅から空港で30分ってかなりの無理筋のお願い。おおよそ50キロあるし。ここから私の運転なら控えめに見積もって40分はかかる。…なんだけど、ドイツのアウトバーン、何が特長かご記憶でしょうか。


速度無制限。


そう、高速道路でぶっ飛ばせば、いくらか時間は稼げるだろうと。


この運転手さん、正直私の期待以上の動きをしてくれた。駅を出るなり50キロ制限の市街地のごちゃごちゃした部分を80キロ以上で走り始める。そのまま数分後にはアウトバーンのインターへ。


高速道路に入ると追い越し車線を200キロで走り続けるタクシー。追い越し車線に車がいると、200キロで走っているのにほぼ車間距離ゼロで煽る煽る。わーい。カミカゼタクシー楽しいぞ(←って少しは心配しろよ)。

(カミカゼタクシーを助手席で満喫。この経験はプライスレス…なのか?)


まあ、すごかった。高速区間は180から200キロで安定巡航してくれた。で、空港近くの一般道に降りると、突然運転席のスマホをいじりだす。 なんだよ。誰かに電話でもするかと思いきや、スマホのアプリを立ち上げる。


「オービスなし」


ああ、オービス情報のアプリを立ち上げたのね。で、80キロ規制の一般道区間も150とかで飛ばしてくれた。ほどなく空港に到着所要時間は測ったかのようにかっきし30分。


で、こっそり動画を撮ったのよ。ところが残念なことに胸のあたりに構えていたスマホ、位置が低すぎた。いまいちよく撮れてない。それでも見やすかった部分はドイツに戻ったら編集して動画としてようつべにあげようと思います。


到着後…。


私:「約束の100ユーロだ。釣りはいらねえ…あ、でも領収書はちょうだい」


まあ、99.9%無理ですが、明日会社に交渉してみます。足代出ませんかねって(まあ、ヒコーキ代も自腹なんだから、まず無理)。ちなみに成功報酬として10ユーロさらに余計に自主的に払いましたよ(追記。部長にタクシー代出してくれるか聞いてみたら…鼻で笑われました)。


出発時刻まであと20分。幸い保安検査がガラ空きだったので、数分で保安検査を通過。搭乗口に着くと、いよいよ最後の乗客が搭乗しようとしているところ。うおっ。まさに首の皮一枚で間に合ったぞ。


その後は特に書くようなことはない。隣の席のおじさんの脇が公害レベルだったとかどーでもいい話を端折れば、ミュンヘン経由で定刻通りにダブリンに着いた。ちなみに、機長からのアナウンスによると、ミュンヘンからダブリンまでの飛行ではうちの上空を飛んだらしい…なんか地上でさんざん右往左往した後にそれを聞くと、なんか虚しく感じた。


そして、さすがはホリデーシーズンまっただ中の日曜日、ハノーヴァーからミュンヘン間、そして、ミュンヘンからダブリン間のどちらも完全に満席だった。たぶん乗り遅れてたら航空会社の厚意で他の便に振り替えてもらうことはできなかっただろうなあと推察。


まあ、考えてみると、金にモノを言わせた一部の人にはあるいは不愉快な日記だったかもしれません。だけどさ、ヒコーキにギリギリ無事間に合ったという事実を踏まえると、与えられた選択肢の中ではたぶん最善のものだったと。そして、土地勘があるところだからこそ、冷静にギリギリの判断ができたもんだと自画自賛してしまう。それでも結婚前で超金欠の身。100ユーロはとことん痛かったです。